冬の空なんて見上げたことは1度もねぇ

冬は格好の稼ぎ時でどいつもこいつもそこらじゅうを駆けずり回って

金金命乞いの念仏みたいに呟いてる(まぁ俺もだが)

どっかの誰かのご大層な誕生日にかこつけて下品な装飾品で街中を飾り立てたり

ひとさまが勝手に決めた時間の流れが一つ新しい数を踏むってんで一体何がそんなにめでたいのか祝い狂ったり

金が発生する理由のためにこっからこっちはアレな日なんですニッコリなんて腐った笑顔で札束数えるくらいなら

俺に狭い空でも見上げるちょっとの時間でもくれないか

人と金がいやってほど行き交う時期だから

冬ってのはとかく俺にとってもめぐるましい怒涛の季節ってわけだ



…あぁもうさっきから思いがグルグルしてうざい

一体誰の為に今まで駆けずり回ってたと思ってるんだ

握ったら真っ赤な鉄が染み出してくるんじゃないかって思うくらい乾ききって何層も分厚くなった2本なんて

いくら冷たくなったって構わなかったんだ

豚みたいに鼻息荒いクソ野郎の脂ぎった声に殴りつけられても平気なように

心を深く冷たくするなんて造作もなかったんだ

なのに

お前のその貧相な腕がなんで冷たくなってるんだ

お前のそのお世辞にも綺麗と言えない顔がなんで堅くなってるんだ

お前の医者代の為に働いて働いて働いて

お前の命をつなぐってなら全然安いその金を死に物狂いで搾り出して

正に「どっかの誰かの誕生日」を2人で祝ってる暇なんてなかった

そんなものの準備の為にこの狭い部屋のここそこをほじくる暇があるんだったら寝て体早く治せよって言ったら

いつもはその場で手にしたものが飛んできたけど

その時は滅多に見れない綺麗な笑顔でなぜか哀しそうにお前呟いたよな

なんであんたは生きてるの

お前がそれを言うのか

なあ、そんなの決まってるじゃねぇか

言わなくても分かるだろ、いや分かってたはずだろ?

分かっててくれよ知っててくれよ

もう俺を知っているのはお前しかいないんだ

なんでそんなことすら分かってないんだ

そうだよ俺にとってそれは「そんなこと」なんだ

なんで俺は生きてるかって

そんなの…なあ、お前のためなんだよ

お前だけだったんだ俺には



綺麗だな、冬の夜空って

今初めて見たんだ

まっしろな骨に変わったお前の、まっしろな心はどのへんにいるのかなって気になったから

静かな聖なる夜…前夜祭の蒼い夜に、俺は初めて空を見上げたんだ

一面の星、綺麗だ、綺麗だよ

空気も夜も匂いも星もみんな綺麗だ

世界は汚ぇものに塗れてると思っていたけどそれは違ったな

汚ぇのは俺だったな

汚ぇのは俺だけだったな

面白いな、笑えよ

冗談が嫌いなお前だったけど、なぁ笑えよ笑ってくれ

あぁ、そうかお前にはもう笑える顔がねぇな

俺を罵倒する口もねぇ

そうか、ならせめて輝いてくれ

こんな俺が見上げた時にすぐお前だと分かるように、輝いてくれ

どうせお前のことだから……そうだな、あれだろあの星

あの一番小さな星

あの星がお前だろ?

周りの星が次の夜空を目指して一斉に西に逃げてるのに、鈍臭くてまだ東の空でノロノロしてる星

一番東よりの、足の遅い(あぁ足もないんだっけ)あの星がお前だろ?

あぁ…眠い

今夜はこの草むらで寝るから

お前の光を毛布に聖歌を子守唄に多分いい夢を見るから

明日の朝7時くらいに起してくれるとありがたいんだけど

…あぁ、だからものを投げつける手も罵倒が飛び出す口もないんだっけな



……朝か?あぁまだ夜明けだ

5時くらいか?おい、こんなに早く起してくれるな

まだ全然疲れが取れてない…

昨日の聖なるイブにお前を星にする手配を全てしたから…いつもより3倍…や、5倍は疲れて…

あぁもう働かなくても…いいかな、お前いないし

夜しか…お前に会えないし…



……おいお前

なんでまだそこにいる?

あれから少ししか…いや、全然動いてないじゃないか

なんでそんな東にいるんだ?

そんなところにいたらお前…日が昇ってきちまうぞ

朝日に殺されちまうぞ

何してんだ

何を…なぁ!何してんだよ

なんでお前が死ぬのを俺は2度も見なくちゃないんだ

なんで俺はまたなんにもできないんだ

カラ廻って結局お前をなくしちまって

なんで…なにも…

……

…いや、なにかをしよう

今からでも

お前の為になにかを



夜を渡ろう

ずっとずっと夜を呼ぼう

世界を夜だけにしよう

俺に太陽は消せないが、夜に生きることは出来る

俺はひたすら西に行く

お前に永遠に夜が訪れるように

俺は西に走る

時間が無い

急げ、急げ

時間が、時間が無い

俺は西に走る

馬鹿だと思うか、こんなこと

地球とか宇宙とかそういうレベルで考えたら、こんなこと

でもな、俺はここで生きてる

地に這いつくばって汚く生きてる

だからなこれくらいしか出来ない、出来ないけどな

それでも俺はここに生きよう

それでも俺はお前を守ろう



イエス

イエス・マム

マリア

おめでとうございます

あなたのご子息は世界人口の3分の1もの人間に

にわかを含めればほぼ地球上の人間もしかしたら動物だってなんだってその沢山の命に

今か今かと待ち望まれその優しき光に包まれながら生まれそして

地に還られた後何十年何百年と未だに弱き生き物の心を救っています

そうして望まれてこの世に在るべき重要な命が生まれたこの日はとても、

とても美しく神聖で綺麗だと思うのですが

その影で消えていく光が在ったのをご存知ですか

あなた方の今日を祝おうと、最期まで祈りを捧げながら消えていった光があったのをご存知ですか

あなたとあなたにツバを吐き掛けながら生きている汚い男の名前を呟きながら

消えていった光があったのをご存知ですか

ご存知ですか?

きっとご存知ないでしょう

俺も冷たいあいつを星にするまで気付きませんでした

あいつの残してくれた光

あいつの与えてくれる光

その尊い光輝を、その優しい輝きを

俺も気付けませんでした

俺はあなた方の何もかもを信じちゃいませんが、今だけ信じていいですか

俺はあの星を守ります

あの消えそうな星を守り続けます

今日あいつが星になったこと

今日あなたが生まれたこと

今日あの光を守ろうと誓うこと

これはあなたがたのくれた時の巡り合わせなんだと思います

それを俺は信じます

あなた方に祈りを捧げます

どうかこんな汚い俺でも…こんな自分勝手な祈りでも

聞いてくださいますか



どうか


どうか俺に


あの星を守れるだけのご加護を




どうか、ご加護を






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